大血管障害とは?
大血管障害(大血管症)は、高血糖状態がもたらした動脈硬化により、太い血管(大血管)に障害が起こる糖尿病の慢性合併症です。特に心臓、脳、足の血管が影響を受けやすく、心筋梗塞や脳卒中、末梢動脈疾患などの重篤な病気を引き起こす可能性があります。これらの中には前触れなく発症するものもあり、発症するだけで命に危険が及ぶ、あるいは重篤な後遺症を残すものも少なくありません。
糖尿病専門医のいる箕面市・箕面萱野駅のながい内科循環器内科クリニックでは、糖尿病の管理とともに、大血管障害の予防も含めた総合的な診療を行っています。糖尿病の合併症の中でも特に注意が必要ですので、定期的な検査によって予兆の早期発見に努めます。
糖尿病と血管、動脈硬化
血管の役割は、体の隅々まで血液を運び、各組織に酸素や栄養を届けることです。健康な血管は、内側を覆う細胞(血管内皮細胞)が正常に機能することで、スムーズな血液の流れを保っています。
しかし、高血糖や高血圧が続くと血管内皮細胞が傷つき、血管の内側に余分な物質が蓄積していきます。その結果、血管は徐々に硬くなり、その内腔も狭くなっていきます。これが動脈硬化です。内腔が狭くなった血管には十分に血液が流れないため、周囲の組織への栄養供給が不足し、徐々にその機能が低下していきます。
糖尿病では慢性的な高血糖になりやすく、動脈硬化が通常よりも早く進行する傾向があるため、合併症のリスクが非常に高いのです。
小血管障症
基本的に細い血管ほど詰まりやすいので、動脈硬化の影響を特に受けやすいのは毛細血管です。糖尿病の合併症のうち、毛細血管の血流が滞ることで起こるものを細小血管症と言います。この中には糖尿病性神経障害、糖尿病網膜症、糖尿病腎症などが含まれ、いずれも合併症として特に頻度の高い疾患です。
しかし、動脈硬化が進行すれば大血管も影響を受けます。大血管は文字どおり大量の血液を運んでいるため、これが障害されることで起こる影響は、小血管症以上に重篤なものになりやすいのが特徴です。
大血管障害の例と診断・治療
糖尿病による大血管障害には以下のようなものがあります。糖尿病だからといって必ず発症するというわけではありませんが、糖尿病ではない方と比べて発症率が高いとされています。
心筋梗塞・狭心症
心臓に血液を運ぶ冠動脈が動脈硬化により狭くなることで起こる疾患です。狭心症は一時的な血流不足による胸痛が特徴で、心筋梗塞は血管が完全に詰まることで心臓の筋肉が壊死する重篤な状態です。糖尿病の方は血管の狭窄が起こりやすいだけでなく、神経障害により胸痛などの警告症状を感じにくいことがあります。そのため、定期的な検査による早期発見が重要です。
検査
血液検査、心電図検査、心エコー(心臓超音波検査)などを実施し、心臓の血管の状態を詳細に評価します。
治療と予防
血糖値、血圧、脂質の適切な管理を行い、動脈硬化の進行を防ぐことで発症を予防します。自覚症状に乏しいケースが多いため、症状の有無にかかわらず、定期的に検査を実施します。
将来的な発症リスクが高いと判断した場合には、血管を広げる外科的治療も検討されます。
なお、胸痛や息切れなどの症状が現れた場合は、速やかに受診してください。特に症状が急激に現れた場合は命にかかわることもありますので、救急車の要請もご検討ください。
脳血管障害(脳卒中)
脳の血管に障害が起こる病気の総称です。血管が詰まる脳梗塞、血管が破れる脳出血、クモ膜下出血などがあります。いずれも重症化しやすく、迅速に処置しないと命に危険が及ぶこともあります。
仮に一命を取り留めても重篤な後遺症を残す可能性があるため、予防が非常に重要です。
検査
頸動脈超音波などを実施し、脳や首の動脈の状態を評価します。糖尿病の方は、血糖コントロールとあわせて定期的な検査を受けることが重要です。
治療と予防
発症すると重篤な状態に陥るケースが多いので、適切な管理で動脈硬化の進行を抑制し、発症を未然に防ぐことが第一です。血糖コントロールに加えて、血圧管理、減量、禁煙が重要となります。
なお、脳卒中の初期症状として、頭痛やめまい、手足の麻痺、言語障害(うまく話せない)などの症状が挙げられます。これらの症状が現れた際は、直ちに脳神経外科を受診してください。早期治療が可能な時間帯(発症から3~6時間以内)が重要となりますので、周囲の人の手を借りる、救急車を呼ぶなどして迅速に行動しましょう。
末梢動脈疾患・足病変
手足、特に足の血管が動脈硬化により狭くなり、正常な機能が損なわれた状態です。初期は歩行時に足の痛みや違和感が生じる程度ですが、重症化すると潰瘍や壊疽を引き起こし、最終的に四肢の切断が必要になる可能性があります。
糖尿病の方は神経障害により痛みを感じにくいことがあり、気づいた時には症状が進行していることも少なくありません。
検査
下肢の血圧測定(ABI)、血管の硬さの評価(CAVI、PWV)、下肢動脈エコー、MRA、CTなどにより、足の血管の状態を評価します。足先の冷え、しびれ、痛みのほか、歩きにくさ(しばらく歩くと足が重い、痛い)などがある場合には、早めに受診して検査を受けましょう。
治療と予防
心臓や脳の場合と同様に、血糖コントロールが治療および予防の第一となります。あわせて手足の状態の定期的な観察を行い、必要に応じて薬物療法によって血行を促進させます。
なお、組織が壊疽した場合は、傷の拡大や細菌感染を防ぐために、病変部の部分的な除去、切断を行う場合もあります。
大血管障害を予防するためには?
大血管障害の予防には、以下のような取り組みが重要です。当院では、糖尿病専門医が患者様の状態に合わせた予防プログラムをご提案しています。
血糖コントロール
適切な血糖管理により、血管への負担を軽減します。食事療法、運動療法、薬物療法を組み合わせた総合的な治療を行います。
定期的な検査
早期発見のために定期的な検査を実施します。糖尿病と同様に動脈硬化のリスク因子となる高血圧、脂質異常症、肥満などの検査・治療もあわせて実施します。
生活習慣の改善
適度な運動、バランスの良い食事、禁煙、ストレス管理など、健康的な生活習慣を心がけましょう。