糖尿病腎症とは?
糖尿病腎症は、長期の高血糖状態により腎臓の機能が低下していく病気です。糖尿病の慢性合併症の一つで、糖尿病性神経障害や糖尿病網膜症とともに「糖尿病の三大合併症」と言われています。進行すると腎機能が著しく低下し、最終的に人工透析が必要になる可能性もあります。
しかしながら、初期段階での自覚症状はほとんどありません。糖尿病の方は、定期的な検査によって糖尿病腎症の早期発見に努めることが重要です。
糖尿病と腎臓の関係
腎臓は、血液を濾過して老廃物を尿として排出する重要な臓器です。1日約200リットルもの血液を濾過し、約1~2リットルの尿を生成します。腎臓の濾過装置である糸球体は細い血管(毛細血管)の集まりで構成されているため、高血糖状態の持続によって動脈硬化が進むと、徐々に損傷を受けて本来の機能を果たせなくなってしまいます。
しかし、腎臓は「沈黙の臓器」とも言われており、異常が起きてもなかなか症状として現れません。合併症として特に注意が必要な一方で、発症に気づきにくい点が糖尿病腎症の怖いところです。
糖尿病腎症の重症度とその症状
糖尿病腎症は徐々に進行していくのが特徴です。進行度合いに応じて以下のように分類されます。
第1期(腎症前期)・第2期(早期腎症)
糖尿病腎症の初期段階で、尿中の蛋白質(アルブミン)が増加します。この段階では自覚症状はほとんどなく、適切な治療を継続すれば改善が期待できます。
第3期(顕性腎症期)
糖尿病腎症の進行によって、腎臓での濾過が十分にできなくなった状態です。体内に余分な水分や不純物が多く残りはじめ、体のむくみや疲れやすさなどを感じることがあります。血圧の上昇や貧血なども現れ始めますが、こうした症状からは腎臓の異常だと自覚しにくいので、放置されてしまうケースも少なくありません。
第4期(腎不全期)・第5期(透析療法期)
腎機能が著しく低下し、老廃物や余分な水分を体外に排出できなくなった状態です。全身のむくみ、強い疲労感、吐き気などの症状が現れ、最終的には人工透析が必要となります。この段階まで至ると、日常生活に大きな制限が生じることになります。
糖尿病腎症の検査と診断
糖尿病腎症は無症状のまま進行することが多いため、定期的な検査による経過観察が重要です。以下の検査結果をもとに腎症の進行度(病期)を判定し、適切な治療方針を決定します
尿検査による評価
健康な腎臓は、体に必要な栄養素を尿中に漏らさないように濾過する機能を持っています。しかし、腎症により腎臓が傷つくと、本来は体内に留めておくべき蛋白質が尿中に漏れ出てきます。尿検査ではこれらの成分を測定し、腎機能の低下度を判断します。
血液検査による評価
腎臓の濾過機能を数値化したものを「糸球体濾過量(GFR)」と言います。血液中の老廃物(クレアチニン)の量やeGFR(推算糸球体濾過量)を測定することで、腎機能の状態を正確に評価します。
糖尿病腎症の病期分類
病期 | 尿タンパク値(g/gCr)あるいは アルブミン値(mg/gCr) |
GFR(ml/分/1.73m2) |
---|---|---|
第1期(腎症前期) | 30未満 | 30以上 |
第2期(早期腎症期) | 30~299 | 30以上 |
第3期(顕性腎症期) | 顕性アルブミン尿(300以上)あるいは 持続性タンパク尿(0.5以上) |
30以上 |
第4期(腎不全期) | 問わない | 30未満 |
第5期(透析療法期) | 透析療法が必須の状態 |
糖尿病腎症の治療
糖尿病腎症の治療では、進行度に応じて以下を実施します。初期段階で治療を開始できれば悪化を防ぐことが可能ですが、一度低下した腎機能は基本的に元に戻りません。いかに腎機能の低下を食い止めるかが治療の鍵となります。
血糖コントロール
糖尿病腎症の原因は、糖尿病による高血糖と動脈硬化の進行です。まずはこれを改善することが、腎症の進行を防ぐための基本となります。食事療法、運動療法、薬物療法を適切に組み合わせ、患者様に合わせた血糖コントロールを行います。
食事療法
塩分制限や蛋白質の適切な摂取など、腎臓に負担をかけない食事管理を行います。進行度に応じて内容を調整しながら、無理なく継続できるようにします。
生活指導
禁煙、適度な運動、規則正しい生活など、血糖コントロールのために効果的な生活習慣の改善指導を行います。
血圧管理
高血圧も腎機能に悪影響を及ぼします。高血圧と糖尿病は合併しやすいので、必要に応じて腎臓を保護する効果のある降圧薬(ACE阻害薬やARBなど)を中心とした血圧コントロールも行います。
糖尿病腎症の発症予防と重症化予防
糖尿病腎症の予防では、「糖尿病の管理」と「合併症の予防」の2つが柱となります。糖尿病の方は常に糖尿病腎症のリスクがあることを意識し、定期的な検査によって発症を未然に防ぐことが大切です。また、仮に糖尿病腎症になってしまっても、早期に治療を開始できれば改善が見込めます。
糖尿病専門医のいる箕面市・箕面萱野駅のながい内科循環器内科クリニックでは、糖尿病管理の一環として定期的な検査を実施し、糖尿病腎症をはじめとした合併症の予防にも力を入れています。
糖尿病の管理
適切な食事管理、運動習慣の確立、禁煙などの健康的な生活習慣を身につけることは、糖尿病腎症の治療だけでなく予防にもつながります。継続することが大切ですので、患者様お一人おひとりに合わせた治療法をご提案いたします。
合併症の予防
糖尿病だけでなく、高血圧や脂質異常症などによる動脈硬化も腎機能の低下につながります。定期的な動脈硬化検査(CAVI/ABI)を行い、合併症のリスクを適切に評価することで、腎症の予防および早期発見につなげます。
継続的な管理
腎症は長期的な管理が必要な病気です。当院では、患者様の状態に合わせた治療プランを提案し、継続的なサポートを行っています。